Facebook icon Twitter icon Forward icon
2022年6月3日号
 
 

5月の新刊

ヴァンパイアと屍体 新装版
死と埋葬のフォークロア

■ポール・バーバー
■野村美紀子=訳
■四六判/上製 456頁 定価 本体3200円+税
■2022年5月20日発売

映画・小説・アニメなどさまざまなフィクションでおなじみの吸血鬼ドラキュラ。スラヴ地方を中心に広く伝わる《吸血鬼(ヴァンピール)伝説》を、現代法医学の観点から詳細に分析し、吸血鬼の意外な実像を解き明かす画期的書。待望の新装復刊。

●●●担当編集者より●●●
吸血鬼というとブラム・ストーカーによるドラキュラ伯爵のダンディな姿が一般的ですが、私たちの世代が魅了されたのは、萩尾望都『ポーの一族』シリーズの永遠の少年のイメージ。いずれにしても、世俗にまみれぬ貴人の印象が強くきざまれています。 本書は、ヨーロッパ各地に伝わる民間伝承を地道に精査した上で、現代法医学による「死体の腐敗過程の科学」の光を当て、ヴァンパイアの実像に迫るユニークな一著。
 長らく品切れ状態が続いていましたが、31年ぶりに新装版として復刊しました。 目下ロシアとの予断を許さぬ攻防が続くウクライナ北東部の都市ハルキウ。第6章終盤や第14章序盤には、かつてハルキウ大学ロシア語文学科長だった民俗学者ディミトリイ・ゼレーニン(1878-1954)『ロシア(東スラヴ)民俗学』(1927)からの引用も収載されています。 火葬が一般的となった現代日本の私たちにとって、死体の腐敗過程を目にすることはほとんどなくなりましたが、「メメント・モリ(死を忘れるな)」は、時代や地域、民族を超えた警句といえるでしょう。 (十川治江)

 
 

近刊情報

幻談水族巻 (げんだんすいぞくかん)
いちばん近くにある異世界の住人たち

■福井栄一
■B6変型/丸フランス装 224頁 定価 本体1700円+税
■2022年6月下旬刊行予定

海や川、池や沼には、いったい何が棲んでいるのかわからない。水界では、どうやらヒトの理屈は通らないようだ…神話の時代から、日本人の想像力や畏怖を呼び起こしてきた水棲の生き物たち。物語や日記・随筆など、さまざまな形で今に伝わる逸話や奇譚を精選。くろぐろとした水底に潜む不思議をすくい上げる。

●牡蠣(かき)の早業/七本足の蛸/小蟹の行進/亀入道/酒に酔う鯛/怪魚あらわる/熟睡する翻車魚(まんぼう)/河豚(ふぐ)汁の秘密/鰐(わに)に魅入られた船 などなど、水にゆかりの深い生き物たちの妖しい物語を、古典から精選して現代語訳。「十二支」「身体」「虫」に続くシリーズ第4弾。表紙絵は、浮世絵師・落合芳幾の《見たて 似たか きん魚》。キモカワイイ人面金魚たちです。お楽しみに!

●●●著者・福井栄一より読者の皆様へひとこと●●●
「魚は夜通し目を開けたまま眠って悪夢を愉しみ、貝は硬い殻の中に小さな黒い秘密を宿す。そうした水怪たちの幻談の数々を、昔の日本人は書き継ぎ、語り伝えてきた。そして、次はいよいよ、あなたが震え上がる番。心してご一読を。」

 

お知らせ

『世界の複数性についての対話』カバー増刷出来

●17世紀末の歴史的ベストセラー、フォントネルの『世界の複数性についての対話』 。改装用のカバーがなくなり、長らく品切れにしていましたが、カバーを増刷してご注文できるようになりました。この件をSNSで告知したところ、びっくりするほどの反響がありました。

●侯爵夫人との対話形式で綴られた科学啓蒙書の古典。科学と文学の融合の試みであり、17、18世紀の人々の想像力のありさまを明らかにする本書は、空想科学小説としても読めるとの評判です。

●「人間中心的な、人間の思い上がった態度にたいする批判、風刺、嘲笑が随所に見られること等々を付け加えると、この何でもない科学啓蒙書の中に、どれほど多くの爆弾、劇薬が仕掛けられているかがお分かり頂けただろうか。この作品の、このような紙背にかくされたものの探索も、この傑作の大きな魅力のひとつにちがいない」赤木昭三(本書解説より)

 

『わたしはイモムシ』が、ニューヨークADC賞ブロンズキューブを受賞!

●5月18日、『わたしはイモムシ』がニューヨークADC賞 イラストレーション部門でブロンズキューブを受賞しました。この賞は1921年に広告美術団体Art Directors Clubによって設立され、今年で第101回目を迎えた世界で最も古い広告デザインの国際賞です。

● 編集担当によるnote記事「『わたしはイモムシ』世界へはばたく! 桃山鈴子さんADC賞おめでとう!」をご覧いただけます。この作品集の詳細を、ぜひ覗いてみて下さい。英語版もあります。

●桃山鈴子さんの新刊絵本『へんしん』(福音館書店)刊行を記念した原画展が6月1日から25日まで、京都の子供の本の専門店メリーゴーランド京都で開催されます。『わたしはイモムシ』も販売されます。詳しくは桃山鈴子さんの公式HPをご覧ください。


 

kousakusha TOPICS

『モナドから現存在へ』の書評が、「週刊読書人」5/20号に掲載されました。評者は茂 牧人氏。「本書は、「祝いの書としての退職記念論集」である。またその酒井氏の哲学する態度がにじみ出た論集となっている。」

『公園が主役のまちづくり』、著者の小川貴裕さんのインタビュー記事が、日経アーキテクチュア 5月26日号「著者に聞く」欄に掲載されました。「…公共空間の新しい使い方によって、新しい文化が誕生する。そうなれば、地域の価値や魅力が増し、過疎化が進む地域の人口流出を防ぐ手立てにもなるかもしれません」

ブックファースト新宿店にて開催中の「蔵出し本フェア」 はいよいよ6月10日(金)まで。僅少本30点強をお出ししています。この機会にぜひお立ち寄りください。

◆開催中の、第37回 出版社共同企画「謝恩価格本フェア」は6月15日(水)正午まで。日本映画界が誇る巨匠・今村昌平監督の『撮る』、美味しいグルメスケッチ『ワンダーレシピ』などを販売サイト限定で本体価格の45%引きで販売しています。出品リストはこちらをご覧ください。

『賢治と鉱物』6刷決定。孔雀石の空、玉髄の雲…宮澤賢治の作品に数多く登場する鉱物を色ごとに紹介。科学者による美しい写真と最新の鉱物解説とで、賢治の世界と鉱物の世界をより深く知ることができる一冊。鉱物フレーズ200作品×鉱物53種×カラー写真109点収録。6月末ごろ出来予定。

◆note連載「森須磨子 しめかざり探訪記」更新されました。最新は「しめかざり探訪記[11]滋賀県大津市 「ミさん」に守られた、大津のしめかざり」

【編集後記】
今回は、戦争や災厄、時代の変転に見舞われた人々の運命を、食べること・食べるものを通して見つめてみる試み、そういう3冊をご紹介します。

●『ベイルート961時間(とそれに伴う321皿の料理)』(講談社)
クレオール文学の名作『素晴らしきソリボ』などの翻訳で知られ、3.11に関する『カタストロフ前夜』という優れた前著を持つ著者・関口涼子さんの新刊。料理を通して描くレバノンの首都、ベイルートという街の肖像。本書を書き上げ、最後の見直しを行っていた2021年、ベイルート港で巨大な爆発事故が起こり、この街の実に半分以上が破壊されました。本書にはその、カタストロフに見舞われる「前の」ベイルートの様子が記録されています。読み手はそのことの意味を常に念頭に置きながら読んで行くことになります。「料理本とはこのようなものであってほしい」と著者は言います。そのことの意味もまた、考えながら読んで行くことになります。

●『パンと野いちご』(勁草書房)
翻訳家にして詩人・山崎佳代子さんの著書。旧ユーゴスラヴィア内戦の体験を、人びとの食べ物にまつわる思い出をたよりとしてまとめた本。難民となった友たちの語りを、詩人がその耳を通して再現し収録した、聞き書きのすぐれた成果です。巻末にはグーラッシュやパプリカの肉詰めなどの伝統料理のレシピが掲載されています。「三十八年もこの地に住む私にさえ、いやこの地に生まれた者にさえ、どんな戦争だったか、なぜ起きたのかを説明することは容易ではない。それは人間が太陽の光線を、裸眼では直視できないのに似ている。森では、樹木たちが、太陽の強い光線を、木の葉で受け止め緑に和らげる。木漏れ日となった陽光を、あなたは和やかに見上げることができる。この地の人々の言葉が、言葉の葉ごもりとなって、戦争という閃光を和らげ、一人一人の歴史の豊かな色彩を見せてくれることを信じている。」(カギカッコ内、本文より引用)

●『亡命ロシア料理』(未知谷)
原著の刊行は1988年。前の2冊とは少し趣が異なりますが、料理に関する優れたエッセイとして知られています。著者のピョートル・ワイリ、アレクサンドル・ゲニスはソ連からアメリカに亡命したユダヤ系ロシア人の文芸評論家。ロシアへの郷愁に酔いながらも新天地アメリカで手に入る食材もしっかり楽しむ亡命者の暮らしの悲喜こもごも。大げさなまでに知的かつ軽快な語り口で綴られる料理エッセイは皮肉やジョークに溢れた文明批評にもなる。作中の「帰れ、鶏肉へ!」で紹介される、具材を入れたら後はほったらかし、みたいな鶏肉料理が昨年SNSをきっかけにすこし話題になったそうです。この本にもレシピがついていますので、よかったらぜひ再現に挑んでみてください。その際用意する「おたまは必ず木製のでなければならない!」

【山田】