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2022年7月5日号
 
 

6月の新刊

幻談水族巻 (げんだんすいぞくかん)
いちばん近くにある異世界の住人たち

■福井栄一
■B6変型/丸フランス装 224頁 定価 本体1700円+税
■2022年6月28日刊行

海や川、池や沼には、いったい何が棲んでいるのかわからない。水界では、どうやらヒトの理屈は通らないようだ…神話の時代から、日本人の想像力や畏怖を呼び起こしてきた水棲の生き物たち。物語や日記・随筆など、さまざまな形で今に伝わる逸話や奇譚を精選。くろぐろとした水底に潜む不思議をすくい上げる。

●●●担当編集者より●●●
子どもの頃、いっとき海洋生物学者になりたかった。なにしろ「海は広いな、大きいな」である。当時、いろんな図鑑を買い与えてもらってはいたが、どうやら海にはそんなお子様用の図鑑には載っていない、奇妙奇天烈な生物たちがうようよしているらしい。見たこともないものを見てみたい、という単純な好奇心が、海洋生物学に憧れた理由である。断念したのは、すぐに乗り物酔いするからである。結局、潮干狩りあたりで満足するしかなかった。それでも浜辺までのバスで酔った。我ながら、ちょっと情けない理由である。だから荒俣宏さんの魚類への関心の深さは至極納得できるし、西村三郎さんのチャレンジャー号の本も、貪るように読ませていただいた。何が居てもおかしくないのが海であるし、何が起こってもおかしくないのが水界である。そのあたり、昔の人の感慨も似たようなものだったと思う。竜宮城はその象徴である。福井さんの新刊は、古来、日本人が憧れ、畏れてきた竜宮一族の不可思議な物語のてんこ盛りである。登場するのは、まあ、おなじみの魚介の仲間ではあるけれど、彼らが繰り広げる物語の数々は、けっこう常軌を逸している。海は広くて大きいが、人間の想像力もなかなかに広くて大きいものなのである。 (米澤敬)

●●●著者・福井栄一より読者の皆様へひとこと●●●
「遠い遠い星のことはよく分かるのに、私たちのいちばん近くにある異世界(湖沼・河川・海洋)のことは、いまだに謎だらけです。本書では、「水深し 隣はなにを する者ぞ」で済まされない、水界の住人たちの妖しい生態を綴っております。どうぞお楽しみ下さい。但し、水難にはくれぐれもご注意を。」

 
 

近刊情報

科学史から消された女性たち 改訂新版
アカデミー下の知と創造性

■ロンダ・シービンガー
■小川眞里子+藤岡伸子+家田貴子=訳
■A5判/上製 約400頁 定価 本体3800円+税
■2022年8月中旬発売予定

17世紀に始まる科学革命の歴史に、なぜ女性科学者たちはほとんどその名を留めていないのか。本書は17~19世紀の女性科学者たちによる独創的な業績を発掘・紹介するとともに、彼女たちが表舞台から「消される」に至る社会状況と、当時の性差についての価値観を明らかにする。近代科学史×フェミニズム研究の先駆的名著、改訂新版。

●コンパスを手にし、天球儀とともに描かれた物理学者エミリ・デュ・シャトレ夫人の肖像画をあしらった書影は旧版のもの。新装改訂版は新しい表紙になります。

●著者である米国スタンフォード大学教授ロンダ・シービンガーが提唱した「ジェンダード・イノベーション」(男女における体格や身体の構造と機能の違い、加齢に伴う変化、社会的・文化的影響など、性差の視点を考慮した研究/技術開発)を推進する研究所がお茶の水女子大学に設立され、6/17(金)にキックオフシンポジウム「新たな産官学連携の創生に向けて」が開催されました。詳しくはこちらをご覧ください。9月にも学内限定のセミナーを開催する予定です。

 

お知らせ

『賢治と鉱物』増刷出来!

『賢治と鉱物—文系のための鉱物学入門』 が、2011年の刊行以来、好評を博しこのたび第6刷になりました。2022年6月30日出来。

●孔雀石の空、玉髄の雲…宮澤賢治の作品を彩る鉱物を色ごとに紹介。科学者による美しい写真と最新の鉱物解説とで、賢治の世界をより深く知ることができる一冊。

●鉱物フレーズ200作品×鉱物53種×カラー写真109点収録。静かに涼やかに光る鉱物たちを眺めることで、この夏の暑さが気持ちの上だけでも和らぐのではと思います。試しに本書の内容見本をご覧ください。

 

note新連載「私の仕事と工作舎の本」始まりました!

●工作舎の本ってどんな人に読まれているんだろう。どんな役に立っているんだろう。そんな疑問から、 さまざまな分野の表現者や研究者の方に「わたしの仕事と工作舎の本」について書いていただく連載が始まりました。書いてくださる方、日々探索中です。


●第1回は「ロシア宇宙主義の研究者 福井祐生さんが読む『ロシアの博物学者たち』」。研究対象であるフョードロフとロシア宇宙主義について、そして西欧とは異なる視座をもつロシア思想を研究する上で参考文献の一つとなったダニエル・P・トーデス著『ロシアの博物学者たち』について 書いていただきました。

 

kousakusha TOPICS

◆6月18日の東京新聞読書面の寸評にて、『蟲虫双紙』が取り上げられました。「…日本ではモゾモゾ這い回る生き物を、爬虫類のトカゲや両生類のカエルを含めて虫と呼んだ。頭にわいたシラミを取れとスサノオが大国主に促す『古事記』の試練話などを収録。シラミは実はムカデで、大国主はスサノオの娘に渡されたムクノキの実と赤土を秘かに口に含んで吐き出した… 」

◆『月刊ムー』の隠れ人気記事であるブックレビューをまとめた青土社『月刊ムー書評大全』(星野太朗 著)に『異界への旅』の書評が掲載されています。「本書は…ありとあらゆる「異界」体験の逸話を辿り、この世のものならざる世界の「包括的な比較文化的検証」を試みる「異界探究史」である。」

◆フォト・ドキュメンタリー『Ibasyo』の著者で写真家の岡原功祐さんの写真集および実験映像作品『blue affair』(BACKYARD2020)が、世界報道写真コンテスト・オープンフォーマット部門においてアジア賞を受賞!先のKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭でも上映されました。

◆松岡正剛さんが校長を務めるイシス編集学校毎季恒例「多読ジム season11・夏」の「”版元読み”エディストチャレンジ」の第2弾、コラボ出版社は工作舎です!「虫愛づる」のテーマに寄せて『わたしはイモムシ』『蟲虫双紙』『ガラス蜘蛛』の3冊をトレーニングブックとして選書しています。編集の田辺による解説全文を遊刊エディストHPで読むことができます。

◆在庫が僅少になっていた『ライプニッツ著作集[6] 宗教哲学 [弁神論…上]』『ライプニッツ著作集[7] 宗教哲学 [弁神論…下]』の増刷が決定しました。さらに、『江戸博物文庫 花草の巻』は3刷出来!いずれもよろしくお願いします。

◆noteにて、6月4日に「虫の日」にちなんだ文章が公開されています。「「命が惜しいのは、虫も人も同じことだ」─虫の日記念『蟲虫双紙』チラ読み」。ぜひご覧ください。

【編集後記】
●先日、東京国立近代美術館で開催中の「ゲルハルト・リヒター展」に行ってきました。
 ドイツ出身の現代アートの最重要作家ゲルハルト・リヒターの、日本では16年ぶり、東京では初の開催となる個展です。
 広々とした空間に、60年にも及ぶ画業で生み出された多彩な作品群が新旧いり混じる形で展示されていました。
 観る位置によって異なるイメージが現れるガラスの構造物《8枚のガラス》、自身の絵画のスキャン画像を2等分し続けることで得られる無数の細い横縞の《ストリップ》、カラーチャートのポップな色彩を偶然にしたがって配した《4900の色彩》、アウシュビッツの虐殺の現場を捉えた写真から着想されたアブストラクト・ペインティングの大作《ビルケナウ》など、初公開のものや最近描かれたドローイングまで、90歳を超えてなお尽きることのない、作家の創造性に驚嘆させられます。
 面白いことに、この個展には順路がありません。鑑賞者は、観る順番が特に指定されていない空間をあちらへこちらへと見て廻ることになります。色彩の氾濫に翻弄されながら、うろうろ歩き回るうち、時期も材質も技法も異なるそれぞれの作品たちの背景に、何か一貫したとても大きな問いのようなものがあることが感じられてきます。ものを見るとはどういうことなのか、描くとはどういうことなのかなどと、考えが自然と湧き起こらずにはいられないのです。日常ではなかなかたどり着きえないところまで、思考が刺激され、導かれ、運ばれてゆくような。すぐれて特異な体験がここではできるかもしれません。
 幾つかの部屋には大きな鏡があり、展示された絵画と、それを見る人々とをぼんやりと反映させています。その偶然の画面が問いかけてくるものについても、やはり様々な考えが立ち上がるのでした。
 この夏の休みにでも、ぜひ出かけてみてください。それぞれの作品を、はじめは近くから、ついで遠く離れたところから、時間を忘れてじっくりと見てみてください。ほとんどの作品が写真撮影可能です。2022年10月2日(日)まで。駅近なので、それほど暑い思いをしなくて済みます。 【山田】