幻談水族巻 (げんだんすいぞくかん)
いちばん近くにある異世界の住人たち
■福井栄一
■B6変型/丸フランス装 224頁 定価 本体1700円+税
■2022年6月28日刊行
海や川、池や沼には、いったい何が棲んでいるのかわからない。水界では、どうやらヒトの理屈は通らないようだ…神話の時代から、日本人の想像力や畏怖を呼び起こしてきた水棲の生き物たち。物語や日記・随筆など、さまざまな形で今に伝わる逸話や奇譚を精選。くろぐろとした水底に潜む不思議をすくい上げる。
●●●担当編集者より●●●
子どもの頃、いっとき海洋生物学者になりたかった。なにしろ「海は広いな、大きいな」である。当時、いろんな図鑑を買い与えてもらってはいたが、どうやら海にはそんなお子様用の図鑑には載っていない、奇妙奇天烈な生物たちがうようよしているらしい。見たこともないものを見てみたい、という単純な好奇心が、海洋生物学に憧れた理由である。断念したのは、すぐに乗り物酔いするからである。結局、潮干狩りあたりで満足するしかなかった。それでも浜辺までのバスで酔った。我ながら、ちょっと情けない理由である。だから荒俣宏さんの魚類への関心の深さは至極納得できるし、西村三郎さんのチャレンジャー号の本も、貪るように読ませていただいた。何が居てもおかしくないのが海であるし、何が起こってもおかしくないのが水界である。そのあたり、昔の人の感慨も似たようなものだったと思う。竜宮城はその象徴である。福井さんの新刊は、古来、日本人が憧れ、畏れてきた竜宮一族の不可思議な物語のてんこ盛りである。登場するのは、まあ、おなじみの魚介の仲間ではあるけれど、彼らが繰り広げる物語の数々は、けっこう常軌を逸している。海は広くて大きいが、人間の想像力もなかなかに広くて大きいものなのである。
(米澤敬)
●●●著者・福井栄一より読者の皆様へひとこと●●●
「遠い遠い星のことはよく分かるのに、私たちのいちばん近くにある異世界(湖沼・河川・海洋)のことは、いまだに謎だらけです。本書では、「水深し 隣はなにを する者ぞ」で済まされない、水界の住人たちの妖しい生態を綴っております。どうぞお楽しみ下さい。但し、水難にはくれぐれもご注意を。」