■倉谷 滋
■A5判/上装 704頁 定価 本体8000円+税
■2022年12月14日発売
ヘッケルによって提唱された「発生反復説」は、1990年代に興隆した進化発生学に重要な視点と課題を与えた。「発生反復説」の現代的可能性を追求する。
●●●担当編集者より●●●
倉谷さんとの本づくりは、翻訳書を含めるとこれで5冊目になる。いつも驚かされるのは、専門の進化発生学はもちろん、古典に至るまで多くの領域の論文や書籍をよく読み込まれていること。加えて、かなりの偏りはあるものの小説や映画への目配りも半端ではない。そんな倉谷さんが綴った『反復幻想』は、内容、ヴォリュームともに、そうそうたやすく読みこなせるような代物ではないのだが、各章に挿入されたコラムが、マラソンの給水ポイントのように、次のページを開く駆動力を与えてくれる。
これまでエルンスト・ヘッケルというと、『自然の技巧』に代表されるヴィジュアル・メーカーや、どこか怪しげな進化論原理主義者のイメージが先行しており、一部のヘッケル人気もそのあたりが主な理由になっていた。一方で、もう終わった科学者とされることも多い。近年、倉谷さんほど正面切ってヘッケルの発想に向き合い、その現代的意義まで掬い取ろうとした人はいなかったのではないだろうか。ちょっと気になるのは、ヘッケルが真っ当に評価されるほどに、当の倉谷さんが怪しく見えてくることである。『分節幻想』『反復幻想』と続いた幻想シリーズ、次はどんな幻想に迷い込むのだろうか。
(米澤 敬)