■福井栄一
■B6判変型/丸フランス装 248頁 定価 本体2100円+税
■2023年6月16日発売
羽ばたく鳥は常世の理に囚われない。トンビが龍を連れ去り、青菜がスズメになり、山野のクジャクは齢100を超える。人を惑わし、恩に報いり、未来を告げ、風の向くまま羽を広げる。十二支から始まった奇譚集、跡を濁さず一旦完結。
●●●担当編集者より●●●
朝早く、家の近所の善福寺川沿いを散歩していたら、いきなりハシブトガラスに体当たりされた。何か気に障ることをしてしまったのだろう。以後、気をつけます。逃げるように少し歩いて山桜の小さな黒い「サクランボ」をつまむと、今度は野生化したワカケホンセイインコの集団が騒ぎ出した。また毎年夏になると、深夜、東京23区の内だというのに、どこからかアオバズク(多分)の鳴き声が聞こえてくる。そういう鳥たちの常にない(と思われる)振る舞いに接すると、ついつい何事かの予兆ではないかとか、人間には感知できない変事が今まさに起きているのではないかとか、思ってしまう。昔の人が鳥を魂の乗り物と考えたのも、なんとなく合点がいく。小さな隣人だと思い込んでいるスズメやウグイスやツバメにしてからが、我々は彼らのことを、実はほとんど何も知らないのである。それでいて彼らは、人間の愚行や痴態のあれやこれやを、空の上から見通しているような気がする。福井栄一さんの古典語りシリーズも、ひとまず「鳥」で大団円を迎えることになったが、これもまた、読むほどに妖しく、読むほどにヒトであることを恥じ入らせる一冊なのである。(米澤 敬)