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失敗しない情報システムの構築に向けて
吉田武稔
複合システム論


情報システム企画方法論とは

報システムの企画とは、経営ビジョンおよび経営戦略に沿う情報化要件を明確にし、それらをどのような優先順位で実現するのかを決定することである。このために、「バランスト・スコアカード」(Balanced Scorecard)[★13-1]をツールとして用いる方法論がある。
企業の所有物であるはずの情報システムは、もはや企業だけのものではなく、それらの一部は顧客のものとみなすことが必要である。このため、情報システムの企画段階で、顧客に対して直接的に関係する情報化要件と間接的に関係する情報化要件を認識し、それらの有効性を議論することは、経営戦略に沿った、よりよい情報システムを構築する上で非常に有意義であり、それらの有効性をもとにした情報システムの企画が必要不可欠である。

基礎となる理論:バランスト・スコアカード

バランスト・スコアカードは伝統的な財務会計モデルの限界を打開するために、過去の成果だけに関連する財務業績評価指標のみならず、将来の業績を占う非財務業績評価指標▼1も取り入れた業績評価ツールである。これは本来、企業ビジョンと経営戦略を「財務」「顧客」「内部ビジネス・プロセス」および「学習と成長(従業員)」という4つの視点から具象化し、それらを組織内のすべての階層で理解させるツールであり、戦略志向の組織体を創造するための支援ツールとして考案された。

方法論の五つのステップ

この企画方法論は以下の5つのステップからなる▼2

  (1) 経営戦略目標の因果関係を分節化する:戦略マップを作成する前処理として、経営戦略を先の4つの視点のそれぞれの戦略目標へと落とし込むことが必要となる。このために、重要な項目の欠落がないように、またそれらの項目間の因果関係が明確となるように、ストーリー化することが有効である。
  (2) 「戦略マップ」[★13-2]を作成する:ストーリーをもとに、戦略目標の相互関係を描画する。ここで戦略目標に付随する事前指標と事後指標▼3も可能な限り付記しておく。
  (3) 「バランスト・スコアカード」を作成する:戦略マップを参考にして作成する。情報システムの企画で利用するバランスト・スコアカードは、どの事前指標が情報システムにより支援可能であり、さらにそれらに関連する事後指標および戦略目標が何なのかを明確にするために利用する。これが企画方法論におけるバランスト・スコアカード利用の主たる目的であるため、そこには必ずしも具体的なスコア(数値)を明記しなくてもよい。
  (4) 情報化関連指標図[★13-3]を作成する:情報システムを利用して顧客に直接的に影響を与える事前指標、間接的に影響を与える事前指標をそれぞれバランスト・スコアカードから抽出し、顧客・従業員・業務フローの間に再配置する。同時に、それぞれの事前指標に対応した事後指標も明確にし、それぞれ顧客および従業員に関する指標として付記しておく。なお、この図は情報化のあり方を一覧でき、議論できる鳥瞰図であればよく、特別な描画形式が存在するわけではない(図3参照)。
  (5) 情報化投資の対象と優先順位を決定する:情報化関連指標図を用いて、事前指標の活動を支援する情報化投資の対象および優先順位を決定する▼4

戦略マップおよびバランスト・スコアカードの作成に当たっては、先に示した4つの視点からの情報(戦略目標、事後指標、事前指標および因果関係)をもれなく明示することが重要であるが、情報過多とならないように指標の数を絞り込むことを常に心掛けなければならないことを注意しておく。

情報システム企画方法論の発展

本来、戦略マップおよびバランスト・スコアカードは、企業がその目標や無形資産をどのように有形の成果に変えていくのかを示す地図である。経営者は戦略マップおよびバランスト・スコアカードにより自社の経営戦略を全体的かつ体系的に俯瞰することができる。このようなバランスト・スコアカード本来の目的に戻って、将来的には、情報化投資に対する経営者の意思決定、株主や投資家への報告と説明、さらに社内の情報システムの戦略的な有効性を従業員に理解させるためなどの基礎資料として、バランスト・スコアカードは有用となろう。この意味で、情報システムの企画は戦略的経営プロセスの一部と言える。


  対応ARCHIVE
  ▼1
非財務業績評価指標には無形資産と呼ばれる顧客関係、革新的な技術力、良質で応答性にすぐれた業務プロセス、従業員の組織能力やスキルなどが含まれる。
  ▼2
この手法の適用事例として、次の文献を挙げておく。
「経営戦略適合型情報システム構築に関する企画手法の提案とその発展的利用」服部利幸、吉田武稔『経営会計研究』所収 日本経営会計学会、第2号、p.29-42, 2002・7.
  ▼3
戦略目標は経営戦略を四つの視点のそれぞれに落とし込んだものである。事前指標は戦略目標を達成するために必要となる諸活動を表す指標であり、事後指標は事前指標が達成された場合の成果を表す指標である。
  ▼4
ここで適用可能な方法論として、例えば、「ソフトシステム方法論」(35参照)がある。このような方法論を適用することにより、例えば顧客データベースを構築すべきであるという結論を得る。
 
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