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Chapter1 知のダイナミクス
知の組織的な創造
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02
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04
05

06
07
知識創造企業
SECIモデル

ナレッジマネジメント
グループウェア
コミュニティウェア
アウェアネス支援
知の戦略的な活用
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技術経営
企業の技術戦略
知識資産
テクノストック
テクノプロデューサー
情報システム企画
方法論
社会システムとしての知識
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101
102
産業競争力
知的財産権
社会資本
知識創造自治体
政策知
人間力革新
新産業創出

Chapter2 知のエレメントChapter3 知のメソドロジーChapter4 知のエンジン
 

地域のナレッジマネジメントによる地域共治モデル
梅本勝博
社会システム構築論


思いを言葉に、言葉を形に、そして形をノウハウに

「知識創造自治体」とは、21世紀の知識社会における地方自治の理念型であり、地域ガバナンスの共治モデルである。ここでの自治体は、地方政府でなく、デモクラシーが実践される最も基本的な単位として、人々が政治に参加できる最も身近な場であるコミュニティを意味している▼1
知を創り続けることによって持続的発展を目指す地縁・知縁共同体として、それを構成する地方政府、非営利組織(NPO)、住民一人ひとり、町内会などの住民組織、企業、教育機関などが、 政策知を協力・競争しながら創造・実践することによって、さまざまな問題を発見・解決し、地域の将来ビジョンを実現していこうというものである。
知識創造自治体を実現するための方法論が、地域のナレッジマネジメント▲である。その核心である政策知▲創造プロセスは、理論的にはEASIモデル▲で示される。このモデルは、


●「体験する(Experiencing)●出会う(Encountering)
●共感する(Empathizing)」

●「表現する(Articulating)●分析する(Analyzing)
●議論する(Arguing)」

●「総合する(Synthesizing)●体系化(Systemizing)
●形にする(Shaping)」

●「実行する(Implementing)
●制度化(Institutionalizing)●内面化(Internalizing)」

の4つのフェイズから構成され、社会的知識創造理論の中核となる[★17-1]。
このスパイラル・プロセスは、「思いを言葉に、言葉を形に、そして形をノウハウに」と要約できる。すなわち、体験によって「思い」▼2が生まれ、その「思い」を「政策コンセプト」に表現し、既存の施策や予算措置などと総合して「政策」という形にする。その政策を実行する過程で、社会・組織・個人は「ノウハウ」(社会的には制度や慣習、組織的・個人的には実務能力)という暗黙知▲を蓄積していく。やがて社会的・自然的環境が変わると、その政策と実践ノウハウは現実と合わなくなり、個人がその矛盾を象徴する出来事を体験することで、新たな政策知創造のサイクルが始まる。
実践的には、次のような手法が使われている。


●●●
まちづくり協議会:1981年、神戸市が日本で最初の条例で設置した。住民自身が地域づくりの計画をつくり、行政がそれを認定し、一定の権限を与える。大震災後の復興に大きな力を発揮した。計画だけでなく、管理・運営も担う動きが各所で見られる。

●●
ワーキンググループ:住民がグループでまちづくりに参画する。例えば秋田県鷹巣町では、町民自身が在宅介護の家庭を訪ね、何が必要かを訊いて、ホームヘルパー24時間派遣制度が生まれた。

市民立法ゼミナール(神奈川県川崎市):市民が条例づくりに参画する。最近では、市民のための条例のつくり方についてのマニュアルも出ている(*17-1*17-2)。

●●●
市民版マスタープラン(東京都調布市など):1992年の都市計画法改正で、各自治体は都市計画のマスタープランをつくることが義務付けられた。たとえば調布市では、主婦3人が14ページのものを作成した。

●●
ワークショップ:議論の推進・まとめ役になる専門家に導かれながら、まちづくりの案そのものを住民が直接対面の話し合いでつくる。

白書づくり(神奈川県川崎市):地区ごとに住民に地区の白書をつくってもらう。問題の自主的な発見・解決を目指す。

●●
パブリックコメント:行政のつくった政策案に、住民、NPO、企業などが手紙、ファクス、インターネットなどを通じてコメントして、彼らの意見を反映した政策を共創する。

●●●
市民電子会議室(神奈川県藤沢市など):ウェブサイト上の会議室で具体的な政策課題について市民が議論し、合意に達したものを政策として取り入れる。情報技術(IT)を活用した「eガバナンス」の一手法。

すべての政策分野で「知識創造自治体」と呼べる自治体はまだ存在しないが、萌芽的に特定の政策分野、たとえば福祉や環境の分野で行政、NPO、住民、企業がさまざまな政策知を共創している自治体が増えてきている。
例えば、環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001の取得・維持は、中小企業にとって金銭的・時間的に負担が大きいので、地球温暖化防止会議が開かれた京都市では、環境NGO・企業・行政からなる組織「京のアジェンダ21フォーラム」が、ISO14001の簡易版である「京都・環境マネジメントシステム・スタンダード(KES)」を創って啓発・普及を進めており、地域レベルにおける環境と経済の共存を目指している。
今日、地方分権の流れと地方財政の悪化に伴い、地域経営において、特に政策の面で、いっそうの創意工夫(すなわち知識創造▲)が求められている。すなわち、地域レベルでのナレッジマネジメント(知識経営▲)が必要とされているのである。


  対応ARCHIVE
  ナレッジマネジメント▲
04
  政策知▲
18
  EASIモデル▲
18
  暗黙知▲
21
  知識創造▲
27 / 35 / 43
  知識経営▲
04
  ▼1
元来、政治(ポリティックス)とは、古代ギリシャにおける人々の直接対面の会合によるポリスと呼ばれるコミュニティのマネジメント、すなわち地域経営を意味していた。現在、市町村合併によって行政が広域化するのに伴い、それを補完するために、行政の狭域化として、小学校区レベルの「近隣政府」が構想され、栃木県や宝塚市などでは、すでに実践が始まっている。
  ▼2
「思い」とは、体験から創発する、言葉に表されていない、過去の記憶、現在の関心、未来への夢としての暗黙知である。
 
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