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Chapter1 知のダイナミクスChapter2 知のエレメント Chapter3 知のメソドロジー
部分と全体をまたぐ
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システム方法論
ファジィモデル
カオス
複雑系
ラディカルな知の問い直し
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構成論的手法
ソフトシステム方法論
知識の体系化
科学計量学

Chapter4 知のエンジン
 


知識の生産性を計測する
本多卓也
分子知識システム論


知の生産性をどう量るか

知識▲とは個人的なものではあるが、知識創造を目的とした組織として、高等教育機関、大学が存在している。大学の機能は知識の創造と伝承が主なものである。我々が特に注目しているのは知の創造としての、大学における研究活動である。
「知」を評価するとなると、「知とは何か」を問わないといけないが、知の創造においては経済活動や、スポーツの世界のように評価基準が確立しているわけではない。一般に行われているのが、専門家による評価、ピアレビュー▼1である。自然科学系においては主に学術誌に論文等の形で投稿し、査読者により新規性が判断され、掲載されるわけである。ここで問われるのは一定レベル以上であるかどうかで、問われる内容も専門分野により若干の差異が存在する。たとえば新規性を重視する分野と、論理性あるいは解析の程度をより強く求める分野などの差異がある。このような差異を認めた上で、知の生産性を論文数などから計測し、社会現象を説明するという方法がある。この分野は「科学計量学」と呼ばれている。得られた結果は数値化され、順序が付くので、ランキングとして表現される。
科学計量学を適用することにより、経済活動あるいは教育行政などの社会現象の定量的把握が可能となる。たとえば、日本とアメリカそれぞれの大学当たりの研究費と年間論文数の相関を見ると、日本とアメリカの研究資金状況、ひいては高等教育あるいは科学技術振興政策の一端を垣間見ることができる。また分析の仕方によっては、高等教育機関の運営指針が得られよう。

大学の知を評価する

大学評価に類するアメリカでの本格的な動きは、アメリカ教育審議会の委託を受けて行われたカーターレポート▼2が最初のものである。これは大学院の教育プログラムの主観的評価によるランキング表で、当時学会およびジャーナリズムにセンセーションを巻き起こしたといわれている(A.M. Cartter, 1966)(*37-1)。
一方、日本では1984年に出版された『大学評価の研究』が初めてのものである。ここでは「化学のケース」▼3と題して、データベースとして「ケミカル・アブストラクト」(後述)を用いた科学計量学的解析が、世界と日本の大学の2つのカテゴリーに分けて網羅的に行われている。これは化学・材料分野に限られるが、国際的に見ても世界を対象とした初めての本格的解析結果であり、同分野における日本の大学の研究活動状況が、論文生産性として詳しく分析されている(慶伊富長、1984)(*37-2)。
ここで指摘したいことは、ランキング表の見方である。スポーツの世界においてはひとつのルールにしたがって結果が出されるので絶対的評価といえる。我々の結果も残念ながらと言うべきか、まさしく同様で、論文生産性についての絶対評価となる。ただし見る者の興味は大学としての魅力や、大学が本来もつべき機能、たとえば人材養成や知識生産、それに社会還元(サービス)の優秀さ、あるいは雰囲気などであろう。このような思い(要求)は個人に基づいており、さまざまである。それら志向の集合である総合評価▼4はいわば妥協的なものにならざるを得ない。共通なすなわち唯一な判断基準の策定はできないことになる。この点において、大学ランキング作成の基準が明示的でない表は興味本位なものであると言えよう。
論文生産性について議論する場合、その定量化における傾向、分析精度は用いたデータベースに依存する。我々の用いたデータベースはケミカル・アブストラクト(CA)▼5であるので、物質がらみの学術論文の生産性となる。CAは世界の化学系の文献を言語によらず網羅的に抄録し、抄録されていない分野は主に数学、情報科学等物質に関係しない分野となる。CAを用いて検索した結果の一部、世界の大学のトップ30を別表[★37-1]に示す。また大学という母集団の研究能力を論文数で計測すると、その論文数は大学の規模に依存する。そこで論文総数をその大学に帰属する教員数で割った「教員当たり論文数」をとれば、より質的な比較が可能となるが、紙面の都合上これについては省略する。
学術論文に注目した結果、高等教育機関における物質にかかわる科学的知識生産量を計測した結果となる。これを踏まえて、大学あるいは国家レベルでの科学的知識生産と社会とのインタラクションを、マタイ効果▼6なども含め、検討していきたいと考えている。というのも、マタイ効果は、ものの生産である経済ではよく指摘されているが、知識の生産においてもその効果が認められるかに興味がある。
一般に優秀な大学には「ひと」、「情報」、それに「資金」が集まり、より一層の成果を上げることが一般に期待される。しかし一方では、クラーク・カーが晩年提唱したコンバージェントモデル▼7である、少数精鋭の優秀大学も存在する。アメリカの例ではCALTEC(カルテック=カリフォルニア工科大)がこれに相当する。カルテックは常に数名のノーベル賞受賞教員を抱え、全米一の教官当たり研究資金、論文生産性を誇っている大学である。


  対応ARCHIVE
  知識▲
19
  ▼1
ピアレビュー
同じ専門家による仲間内評価で、学術的な研究などは専門性が高いため、同一分野の研究者による客観的判断を仰ぐ評価方法。
  ▼2
カーターレポート
106大学における29分野、1663学科を対象とし、学科長、指導的教授など5000名余から得た主観的評価をもとに、学科単位に教育プログラムを評価したもの。
  ▼3
化学のケース
日本の大学群は70年代にはすでに世界のトップを、さらに80年以前(遅くとも79年以降)にはトップ5に4校の日本の大学が入っていることが示され、国内外に大きな波紋を呼んだ。
  ▼4
総合評価
かつて日本で大きく取り上げられたものにゴーマンレポート(最新の邦訳は、『ゴーマンレポート アメリカの大学および世界の主要大学格付け』アイ・エル・エス出版、1998)がある。同レポートでは日本の大学はアメリカを除く世界の40位にも入っていない。またアメリカの大学欄では、リベラルアーツカレッジ(教養大学)とプロフェッショナルスクール(専門大学、MBA、ロースクールなど)が混在し、かつ士官学校までが入っており、設立目的が異なる大学を同一基準で評価している。
  ▼5
このほかに全分野を扱ったデータベースとしてよく知られているものに、ISI社のデータベースがある。このデータベースは英語の文献のみで、さらに抄録対象誌が絞られており、その意味ではフィルターがかかっていることになる。
  ▼6
マタイ効果
「持つものは与えられてあり余り、持たぬものは持っているものも取られよう」(前田護郎訳「マタイ福音書」新約聖書13章10-15、『聖書』世界の名著13、中央公論社、1995より)
  ▼7
コンバージェントモデル
一点集中主義などと訳される。得意分野に特化するモデル。
 
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